この時、仮に、「スイカちゃん」という名前にしようと思ったのだった。
 猫氏のつぶやきに時々出てくる、出会い厨で出会った女の子。最近よくこの子とお茶をする。猫氏の空き時間とよく会って、急だけど出会えるのだった。

  スイカちゃんの語源は「素以下」。「素」よりひどい自分をよく男に見せてしまって、落ち込んでしまうという。前にちょっと呟いた「本当に見せたい自分」と「絶対に見せたくない自分」を分けている女の子の事です。

  スイカちゃんは、猫氏が言うと説得力がないのだけれど、ものすごく美人です。色白で、髪はいつだってふんわりとして、りりしい目にチャームな鼻。背は高い印象なんだけれど、凛としているから実は標準身長。身につけている物はやや甘めで、その着回しが美人を逆に引き立たせるセンスよい女の子。

  自分の意見がハッキリとし、根拠のないもの、合理的でないもの、道理に合わないものを極端に嫌い、「違うと思う」「そういうのは嫌だ」とハッキリと、感情を隠さずハッキリ言う。不機嫌さをはっきり出すので、裏表がまったくない。上機嫌の時は本当にニコニコがあふれて止まらない。

  それでも、最近不機嫌率が多いかもしれない。理由は「頑張っても男性に出会うとスイカ(素以下)の自分を出してしまって、そんな自分を出してしまった相手と恋人にはなれないからイライラする」からのようだ。

「私みたいな奴に恋人ができるわけがない」と悲しみ怒る。

  人生の幸せを、恋人の有無で判断しすぎなんじゃないかなあと思うが、人の幸せを満たすものを第三者があれやこれや言うのも違う。スイカちゃんは恋人がほしい。恋人に幸せにしてもらいたい。誰でもいい、という。でも、男性の誰もが「ヤリモクだ」と怒る。

  最近、ようやく「一度会って、セックスをせずに解散して、その後も連絡をしてくれる」男性に出会えたという。それまでは集合場所がホテル前だったりするような男とばかり出会っていた。恋人ではない男とするセックスは性欲処理だから、恋愛に関係が無い、ということで、素で出会っている。

 でも、
「恋人ってそういうんじゃないし、恋人とそういうことしたくない。だってセックスなんて最低じゃん。絶対見せたくないし、恋人とセックスする時は子供産むための目的でしたい。性欲とかセックスとかヤリモクとか最低。セックスなんて素以下。恋人とは絶対にしたくない。」
 と。

 見せたい自分は、完璧で、きれいで、自分が思う理想な自分でありたい。
 そこにはセックスはない。でも男性は、ほぼ100パーセント性欲で近づく。女と言うだけで近づく。「でも当然ですよ私は何にもいい事ないデブスだから性欲以外で近づく男性など皆無。もう詰んでる。だから無理。死」と死ぬ顔をする。

 なんで自分の事をそんなに下にしてしまうのかなあ、と思うが、「恋人がいないという事は価値が無いという事なんです!」と独自の価値基準が顔を見せてしまう。たしかに、人の価値基準はそれぞれ。でもそうなると、構造上詰んでしまわないかなあ。

 そのスイカちゃんが、恋人になるかもしれない男性とのデートの話を聞いたのがこの間。
 混乱と絶望を繰り返しながら、時折見せる「恋人になってくれるかもしれない」という希望が織り交ざって、それを独自の視点で語るのが、明朗で、そして楽しい。

 でも、「素以下の自分を見せたからもうこの人とは絶対に恋人になりたくない」とも。その男性とは性的な話題でも盛り上がってしまい「スイカちゃんともセックスは正直したいよ」と言われてしまい、悩んでしまった。

 さて、スイカちゃんにはセフレが二人いる(猫氏は2回セックスしただけで、セフレではない)。スイカちゃんは「ゴミ屑のように扱われるセックスをされたい」という性癖の持ち主で、二人のセフレに「どちらがよりゴミ屑のように扱ってくれるか競わせている」という。

 一人の男からは挿入時に腹パンしてできたアザを、もう一人のセフレに見せ、「これ以上にひどい事をして」とお願いして、またゴミ屑扱いされるセックスをする。スイカちゃんはそんな二人の名前も知らない。ハンドルネームも知らない。固有名詞をつけたくないんだそうだ。個として認識したくない、と。

 ただ、恋人候補の男の人は名前を聞いてしまった。覚えてしまった。

 「どうしたらいいんだろう」とスイカちゃんは悩む。

 「セックスしたいって言われたんですよ。次逢うの、2回目ですよ? 結局ヤリモクなんですか? 素以下のわたしがエロ話したから? わたしセックス嫌いなのに、嫌いな事をするの?」

 性的な事が、スイカちゃんの中の「見せたい部分しか見せたくない私」にとって、大嫌い。でも素以下の私は「ゴミ屑のように扱われるセックスで性欲を解消したい」のであった。そこでも大きな断絶が、スイカちゃんの美しい身体の中で真っ二つである。

「もうやだデートしたい、無意味なセックスしたくない。不意に写真を撮られたい。不意に撮られた写真をインスタに載せたい。路上で手は絶対につなぎたくない。そんなの公開セックスじゃん、性欲じゃん露出狂じゃん。手をつなぐのに目的があるならいいけどないなら絶対に嫌。セックスは本当いや」

 スイカちゃんの出会った男はなかなかやり手で、最初のデートにカウンター席の居酒屋を選択。
 でもスイカちゃんにとっては「私が酒飲めないって言ってなんで居酒屋にするのかわからないしカウンター席はセックス目的に見えるから最低。嫌だ」と言いながらも

「でも見せたい方の私チョロイからカウンター席すごくいい雰囲気だった、けど、勢いでつい素以下の自分が出て不満を全部ぶつけて男の良くなかった点を挙げつらって最終的にどんびくようなエロ話を延々としてしまった」と。

 すると男から「セフレはいる」という情報を引き出す。

「そのセフレとやらが、本当にただセックスするだけの相手ならいいんですけどねー、どう思います?」

 と話を振るスイカちゃん。猫氏はどう答えたものかなー、と思いながら、
「相手の男の人にも猫氏的な友人がいたらどう思う?」と質問に質問で返す。

「クソどうでもいい。」との返事。

「なぜなら猫氏なんてどうでもいい奢り愚痴吐き要員にすぎないから、そんなのが向こうに居ても別にどうでもいい。ただこんな話をしてしまって私に恋人ができるか? できるわけがない。絶望。死だ。」と苦しむ。

 と、喫茶店、注文した甘いものが運ばれてくる。笑顔。

 どうすれば、スイカちゃんは幸せになれるのかなあ。というか、幸せというものが、皆の思うようなものではない気がする。「見せたい自分しか見せたくない」という潔癖さと、「ゴミ屑のように扱われるセックスがしたい」性欲が、身体の中でせめぎ合っている。

 どちらか片方を切り捨てて、片方だけ満足させることができるのかなあ。男の方でも、見せたくない部分の彼女の姿を完全に見ない事はできないと思うんだ。なぜならスイカちゃんは、隠し事が出来ない。全部全力でむき出しにしてしまうから。

 むき出しにされる。精神的なヌードがそこにあり、ヌードとなると、男はちんちんをたてて、性欲で近づいてしまうんじゃないかなあ。性欲以外で近づいたとしても、遅かれ早かれ、素以下の自分は、あらわになってしまう。

 僕も、スイカちゃんのそういうところが好きだし、その男性もそういう所が好きで、2回目に会いたくなったんじゃないかなあ。そう思うけれどスイカちゃん的にはそれもつらい。すべてがつらい。世界全てがつらいのだ。
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 その男性と会ってくるのが、今週の土曜日と聞いている。どうなったか聞きたいのう。
 どうなったか……。

 猫氏はスイカちゃんのことは本当に好き。その上手くいかなさ、意志があるゆえに、自分があるがゆえに苦しみながら、幸せをやめないで苦悩する姿が、本当に無様で美しくて、セックスしたいなあと思う。
 
 セックスしたいなあと思うんだけどなあ……思うんだけどなあ……。嫌なのかなあ。嫌なんだろうなあ。